会計検査院は11月5日に内閣へ送付した令和7年度決算検査報告で、政府備蓄米の売渡しの状況を報告した。農林水産省が2025年3月から入札と随意契約で売り渡した備蓄米について、販売数量と銘柄米の小売価格の間に統計的に有意な関係は確認されなかった。ブレンド米などの推計小売価格とは、販売数量が多いほど低くなる傾向が見られた。随意契約の売渡しは、期限の8月20日までに完了した分が66.0%にとどまり、全量の完了は2026年3月31日だった。
流通の支障を理由に主食用へ、2段階の売渡し
報告によると、主食用米の小売価格は2024年3月まで5キロ2000円程度で推移していた。その後上昇に転じ、同年8月ごろに南海トラフ地震臨時情報の発表や台風の接近で購入量が増えて品薄になると上昇が強まり、2025年1月には3600円程度になった。
備蓄米は本来、大凶作や連続する不作で米の供給が不足する事態に備える制度だ。毎年6月末時点の適正備蓄水準を100万玄米トン程度と定め、毎年20万玄米トン程度を買い入れて5年間程度備蓄する。玄米トンは、玄米だけの重量をトン単位で表した数字である。
農水省は2025年1月の調査で、生産量679万玄米トンに対して市場への供給が536万玄米トンで、うち237万玄米トンは同省が把握していない経路を通っていたと確認した。同省は生産量に不足は生じていないと認識したまま、流通に支障が生じる場合にも主食用に売り渡せるよう、同月に基本指針を変更した。
一般競争入札は3月3日に始まった。相手は集荷業者で、流通を円滑にし、結果として価格の安定を図ることを目的とし、買い戻しの条件を付けた。それでも5月上旬の小売価格は前年同時期の約2倍の4300円程度で高止まりしたため、同省は5月26日から小売業者などへの随意契約を始めた。こちらの目的は、備蓄米を安価で安定的に消費者へ供給することで、買い戻しの条件は付けていない。
同省は流通の実態を調べ直して市場への供給量を586万玄米トンに修正し、8月に公表した検証で、生産量に不足は生じていないとする認識を改めた。米価高騰の要因として、需要量711万玄米トンに対して生産量が679万玄米トンで不足していたことなどを挙げている。
入札と随意契約、国の売渡価格は2倍近い差
二つの売渡しの結果を並べると、次のようになる。
| 項目 | 一般競争入札 | 随意契約 |
|---|---|---|
| 開始 | 2025年3月 | 2025年5月 |
| 売り渡した相手 | 集荷業者 延べ17者 | 小売業者など 延べ897者 |
| 対象の年産 | 2023、24年産 | 2021、22年産 |
| 売渡数量 | 31万2000玄米トン | 27万9000玄米トン |
| 売渡価格(税抜き) | 1072億1117万円 | 497億0649万円 |
| 国からの販売価格(60玄米キロ、税込み) | 2万2400円 | 1万1400円 |
| 買い戻しの条件 | あり | なし |
| 期限までの売渡し | 全量 | 66.0% |
入札米は、集荷業者への売渡しこそ各回の期限までに全量を終えたが、小売までの流通に時間がかかった。5月上旬までに小売業者などへ販売されたのは4万1000トンで、販売数量27万3000トンの15.3%だった。同省が販売の完了を想定した8月末には、約9割の25万1000トンまで進んだ。
随意契約は、申し込みが4回で延べ1072者あり、延べ897者が買受者に決まった。大手小売業者は実数741者のうち63者で8.5%だが、売渡数量では21万7000玄米トンと77.8%を占める。最も多かったのはコスモス薬品の2万29玄米トンで、イオン商品調達の2万3玄米トンが続いた。
随意契約、期限に3分の1が残る
随意契約の米が最初に小売業者などへ渡ったのは2025年5月29日で、開始から短い期間で販売が始まった。同省は、例年9月ごろに新米の供給が本格化することを踏まえ、8月末ごろまでの販売を想定して売渡期限を8月20日と決めていた。ところが期限までに完了したのは18万4000玄米トンで、9万4000玄米トンが残った。売渡しに最大で310日かかった例もあり、1者あたりの平均は72.2日だった。
検査院は、長期化の要因が複合的だとして、三つを挙げた。一つ目はカビの確認とカビ毒の検査だ。20万2000玄米トンで実施され、完了までの平均は実施分が81.9日、不実施分が59.7日で、22.2日の差があった。確認された流通不適の米は12.2玄米トン、割合で0.006%だった。カビ毒の検査で不適とされた米はない。
二つ目は包装の違いである。同省は買受者が指定した年産の米を売り渡すよう指示していた。ほぼ全量の申し込みがあった2022年産ではフレコンと呼ぶ1トン袋の在庫が減り、標準容量30キロの紙袋の出庫が必要になって、作業に時間を要した。三つ目は売渡希望場所の変更で、精米所との調整や保管場所の不足から変更が多く発生し、運送の調整に時間を要した。
期限の後は、売渡しの継続の指示が期限の前日だったこともあり、受託事業体の体制の立て直しに時間がかかって売渡数量が減った。検査院は、進捗を踏まえて指示を見直すことなどが「必要であったと思料される」とした。一方で、買受者が897者と多く、個々の事情も異なるため、見直しは困難な状況だったとも認めている。
銘柄米の価格とは関係を確認できず
随意契約の米の小売価格は、2025年6月から2026年3月まで5キロ2000円程度で推移した。同じ期間に、銘柄米は最高が2025年11月の4500円台、最低が2026年3月下旬の4000円台だった。ブレンド米やプライベートブランド商品を含む複数原料米等は、最高が2026年1月上旬の4100円台、最低が2025年8月上旬の2900円台となっている。検査院は、随意契約の米が相対的に低価格で消費者に販売されたと確認した。
検査院は重回帰分析で、備蓄米の販売数量と小売価格の関係も調べた。複数の要因を同時に入れて、結果への影響を測る統計手法である。銘柄米の小売価格とは有意な関係が確認されなかった。複数原料米等の推計小売価格とは、回帰係数がマイナス0.026で有意水準は1%未満となり、販売数量が多いと価格が低くなる傾向が見られた。主食用米の販売数量の割合は、銘柄米が約8割、複数原料米等が約2割である。
検査院はこの結果に留保も付けた。推計価格から入札米の影響は取り除けておらず、小売業者の販売戦略や消費者の購買動機も十分に考慮できていない。販売数量の増加に伴って価格が一律に比例して下がり続けることを示すものでもない、と説明している。農水省は入札米について小売業者から消費者への販売実績の報告を求めておらず、検査院は入札米の小売価格を確認できなかった。
612億円の黒字と、減った在庫
備蓄米制度の運営に係る2025年度の損益は612億9764万円の利益となった。2023年度は458億1138万円、2024年度は122億8510万円の損失だった。主食用以外も含む備蓄米の売上高が2024年度の114億9852万円から1810億3452万円へ増え、売買の利益が969億3866万円に上ったためだ。委託契約の支出額は107億5583万円から191億6056万円に増え、なかでも運送経費は9億4338万円から118億9907万円に膨らんだ。
この黒字には、2026年度以降の買い入れと買い戻しの影響が含まれていない。在庫は売渡し開始前の96万玄米トンから、2026年3月時点で32万玄米トンに減っている。
備蓄米の在庫量と適正水準(万玄米トン)
数値で見る(単位: 万玄米トン)
| 項目 | 万玄米トン |
|---|---|
| 開始前 | 96 |
| 26年3月 | 32 |
| 適正水準 | 100 |
同省は2026年4月から2026年産の買い入れを、9月から2025年産による入札分の買い戻しを実施している。買い戻しは当初、原則1年以内としていたが、2025年5月に基本指針を変更し、原則5年以内とした。民間事業者に基準量以上の米の保有を義務付ける民間備蓄制度などを設ける改正食糧法は、2026年7月8日に成立した。報告の在庫量は2026年3月時点の数字で、その後の量は報告に書かれていない。関連する決算検査報告の全体像は、令和7年度決算検査報告、指摘金額1445億円で前年度の2.7倍 中小機構の案件が約6割に、農水相の方針は武部新農水相、就任会見で「需要に応じた生産」継続 備蓄米は100万トンへ、来年産米693万トン案にまとめている。
次の売渡しに残す記録
随意契約の米を5キロ2000円程度で店頭に出したことは、「安価で安定的に」という目的に沿う結果で、この点は評価できる。一方で、612億円の黒字を制度の成果と読むのは早い。在庫を積み戻す費用はこれから計上される。1年間で64万玄米トン減った在庫は、不作に備えるという本来の役割から見れば、食料安全保障の面で回復を急ぐ数字である。
納税者の立場から問うべきなのは、31万2000玄米トンを売り渡した入札の価格への影響を、検査院でさえ確かめきれなかったことだ。小売業者から消費者への販売実績の報告を求めていなかったためである。次に売り渡すときは、要領の段階で小売まで報告を求めるようにすべきではないか。入札の要領は農水省が定めており、小売段階の報告の求め方も同省が検討できる。
期限の管理も同じである。検査院は売渡しの開始時と開始後の指示の在り方を検討する必要があるとした。年産の指定、運送先の変更、紙袋の在庫といった要因は今回の記録に残った。次の売渡しで、包装別の在庫に応じて出す米を切り替える手順を事前に定めておけば、同じ理由で期限に3分の1を残す事態は減らせるのではないか。
