地震の揺れを感知して自動で電気を止める「感震ブレーカー」について、総務省消防庁は、延焼の危険が特に高い密集市街地を抱える全国15市区のうち8市区が、住民の購入や取り付けを支援していないことを明らかにした。11月2日に開かれた政府の国土強靱化推進会議(第22回)に、2026年10月時点の状況として報告した。会議では国土交通省も住宅・建築物の耐震化の現状を示し、住宅の耐震化率は令和5年(2023年)に約90%となった。7月に発生した令和8年熊本地震の建物被害の原因分析も進めている。
「住民や民間が主体の取り組み」を議題に
国土強靱化推進会議は、国土強靱化の施策の進め方を委員が議論する政府の会議で、内閣官房国土強靱化推進室が担当している。第22回は11月2日午後1時から3時まで東京都内で開かれた。議事次第によると、議題は「住民や民間事業者が主体の取組の強化」と「脆弱性評価の課題検討」の二つ。前者について、国交省が住宅・建築物の耐震化、消防庁と国交省がそれぞれ感震ブレーカーの設置推進の取り組みを説明した。
推進室が示した「当面のスケジュール(案)」では、9月11日の第21回で石油コンビナートの地震・津波対策と電力の広域的な融通を取り上げ、今回は耐震化と感震ブレーカーに充てた。令和9年(2027年)1月ごろの次回以降は、建設業などの担い手の確保・育成、備蓄で国や都道府県が担う役割、防災教育などを議論する予定になっている。
その後の回では、人口減少が進む地域での自立分散型のシステムの導入、自治体の地域計画とまちづくりとの連携、災害時に備えた平時の地域コミュニティーの維持を扱う。民間事業者が防災に投資しやすい環境づくりについては、欧州投資銀行などの事例を確かめるとしている。国土強靱化の進み具合を測る指標(KPI)の進捗で見えた課題の把握も、論点に挙がった。
住宅の耐震化率は約90%、避難路沿いの建物は46%
国交省の資料によると、住宅の耐震化率は平成15年(2003年)の約75%から、平成20年に約79%、平成25年に約82%、平成30年に約87%と上がり、令和5年に約90%となった。第1次国土強靱化実施中期計画は、耐震性が不足する住宅を令和17年(2035年)までに「おおむね解消」する目標を掲げている。耐震化率は、すべての住宅のうち、現行の耐震基準で建てられたものと、それ以前の基準で建てられたが診断や改修で耐震性が確かめられたものの割合を指す。
住宅の耐震化率の推移(国土交通省)(%)
数値で見る(単位: %)
| 項目 | % |
|---|---|
| 2003年 | 75 |
| 2008年 | 79 |
| 2013年 | 82 |
| 2018年 | 87 |
| 2023年 | 90 |
病院や店舗、旅館、学校など不特定多数が使う大規模建築物で、緊急に安全確認が必要とされたもの(要緊急安全確認大規模建築物)は、耐震性不足の解消率が令和3年度末の約91%から令和6年度末に約94%へ上がった。目標は令和12年(2030年)のおおむね解消となっている。
遅れが目立つのは、自治体が指定する避難路の沿道にある建築物だ。地震で倒れると道路をふさぎ、避難や救助の妨げになる。対象の7291棟(令和6年4月1日時点)のうち耐震性不足を解消した割合は、令和5年度末に約44%、令和6年度末に約46%で、令和12年の目標は60%にとどまる。国交省は、国土地理院の「重ねるハザードマップ」で路線ごとの耐震性不足の棟数を公開しており、現在は23都府県分を掲載している。
市区町村ごとの耐震化を進める計画(耐震改修促進計画)は、4月1日時点で全47都道府県と、1741市区町村のうち1722市区町村(98.9%)が策定済みだった。都道府県別では東京都が62市区町村のうち53(85%)で最も低い。市町村が自前で耐震化率を出す方法として、国交省は固定資産課税台帳を使う推計方法を令和7年2月に周知したが、自治体の住宅部局から「税務部局との調整や集計の負担が大きい」との声があり、より取り組みやすい算出手順を検討している。
熊本地震の建物被害、木造住宅を建築年ごとに調べる
国交省は資料の冒頭で、2026年7月28日午後4時27分に熊本県熊本地方で起きた令和8年熊本地震の被害を報告した。熊本県宇城市と氷川町で震度7を観測した。消防庁のまとめを引いた10月5日時点の被害(山口、福岡、熊本、大分、鹿児島の5県の合計)は、死者38人、重傷43人、軽傷333人、住家の全壊2408棟、半壊7802棟、一部破損5万9394棟。
国交省と国土技術政策総合研究所、建築研究所は、専門家による「令和8年熊本地震における建築物構造被害の原因分析を行う委員会」(委員長・中埜良昭東京大学生産技術研究所教授)を設けた。8月31日に初会合を開き、12月ごろの第2回で被害状況の分析結果を確かめ、今年度内に取りまとめる予定だ。
検討事項の柱は低層の木造建築物で、建築時期を昭和56年(1981年)5月まで、同年6月から平成12年(2000年)5月まで、同年6月以降の3つに分けて被害を調べる。国交省の資料は、昭和56年以降に建てられた住宅を「新耐震基準」によるものとして耐震化率を数えている。認定長期優良住宅や、耐震等級2・3を取得した住宅の被害も調べる。このほか、煙突の倒壊と、倒れた煙突に類似した煙突の全国調査、免震建築物、天井や建築設備など構造部材以外の被害の原因も分析する。煙突の調査については既報がある(高さ60m超の煙突、全国444本の4割に損傷・劣化 熊本地震の倒壊受け国交省調査)。
感震ブレーカー、15市区のうち支援は7市区
感震ブレーカーは、大きな揺れを感知すると自動的に電気を止める装置だ。推進室の資料は、設置によって地震後に電気が原因で起きる火災(通電火災)が抑えられるとしている。そのうえで、中央防災会議の作業部会が令和7年12月にまとめた首都直下地震の被害想定を引き、都心南部直下地震(冬の夕方、風速8メートル)の場合、感震ブレーカーの設置率が100%になれば建物の焼失棟数と死者数がともに約7割減ると記している。令和8年6月に閣議決定された首都直下地震緊急対策推進基本計画は、緊急対策区域の都県での設置率を令和6年の20%から、令和17年に「おおむね設置」とする目標を掲げる(普及の現状は地震火災の過半数は電気が原因 揺れを感知して電気を止める「感震ブレーカー」、首都圏の設置は約2割にとどまる)。
国が特に重視しているのが、老朽化した木造建築物が建て詰まり、延焼の危険や避難の難しさが特に高い「著しく危険な密集市街地」だ。国交省の資料によると、平成23年度末に全国で5745ヘクタールあった面積のうち、令和6年度末までに77%が解消した。令和5年度末時点で残る1662ヘクタールは15市区にある。消防庁はこれらの市区について、感震ブレーカーの設置計画で定めた目標をハード対策と一体で達成した団体の割合を、令和6年の0%から令和12年に100%とする目標を立てている。令和7年度補正予算では、住民の購入・取り付けを支援する自治体への補助として0.3億円を新たに計上した。設置率の目標を含む計画を立てることが補助の条件となる。
| 区分 | 自治体数 | 割合 |
|---|---|---|
| 支援あり(国の補助金を活用) | 4 | 26.7% |
| 支援あり(国の補助金は活用せず) | 3 | 20.0% |
| 支援なし | 8 | 53.3% |
| うち令和9年度に補助を創設予定 | 4 | ― |
| うち検討中 | 4 | ― |
対象の15市区は、川口市、浦安市、東京都品川区、同北区、横浜市、大津市、京都市、大阪市、豊中市、門真市、寝屋川市、東大阪市、神戸市、高知市、長崎市。消防庁は資料で市区ごとの支援の有無を示しておらず、個別に聞き取りをして国の補助事業を周知していると説明した。国交省は、横浜市が重点対策地域で購入費を、大阪市が分電盤タイプへの改修工事費を補助している例を挙げた。
自治体の条例を通じた働きかけも進む。消防庁は令和7年11月12日、市町村が火災予防条例を定める際のひな型(火災予防条例(例))を改正し、住宅の火災予防のために感震ブレーカーなどの普及に努める規定を加えた。国交省は令和8年1月以降、住宅業界団体に対し、新築住宅の設計段階で施主に設置を提案することや、分電盤の交換・リフォームの機会に住宅所有者へ提案することを求める通知を出した。7月には、電気事業法に基づく電気設備の調査で登録調査機関が各家庭を訪れる際に、感震ブレーカーの冊子と自治体の補助制度を案内する取り組みへの協力を、危険密集市街地を抱える自治体の危機管理や消防などの部局に依頼している。
施策の効果をどう測るか、個別の分析へ
もう一つの議題である「脆弱性評価」は、大規模災害で「起きてはならない最悪の事態」がどのような連鎖で起こり得るかを洗い出し、現状の施策の弱い部分を見つける作業だ。評価に使う指標の達成水準は国土強靱化基本計画にも引き継がれている。推進室は前回、死者数などの全体の指標で施策の効果を測ることを検討したが、データの制約から施策との因果関係の分析は現状では難しいと整理していた。
今回の資料では、多くの施策の効果が定量化されていないと認め、個別の施策ごとに効果・課題・取り組み状況を分析する方針を示した。前回会議で議長は、熊本や千葉の事例から教訓を引き出し、次の計画に生かすべきだと述べた。委員からは、現行の耐震基準は直接死を減らす基準であり、避難生活などで亡くなる災害関連死を減らすことは引き続き難しいとの指摘も出ていた。推進室は、防災庁が行う「定量的弱部分析」との連携も含めて検討するとしている。
資料には、密集市街地対策の欄に感震ブレーカーの設置率100%で死者数が約7割減るとの被害想定が添えられた。15市区の半数を超える8市区で支援が始まっていない現状は、施策の効果が見込める対策でも、実施が自治体の判断に委ねられている状況を示している。
