井林辰憲国土交通相は11月6日の閣議後の記者会見で、北陸新幹線の敦賀・新大阪間で与党が7月に示した「小浜・京都ルートの桂川案」について、環境影響評価(環境アセスメント)を「やり直しを行う必要はない」と述べた。2019年11月に公表した環境影響評価方法書が最大幅12キロを事業実施区域としており、桂川案のルートはその中に収まるという説明だ。同じ会見では、北海道と本州を結ぶ「第2青函トンネル」の構想も問われ、「関係者間の検討状況を引き続き見守っていきたい」と答えた。
会見は午前9時から7分間、国交省の会見室で開かれた。冒頭で大臣から報告する閣議案件は無く、記者との質疑は鉄道ネットワーク、リニア中央新幹線、第2青函トンネル、北陸新幹線の4項目だった。
桂川案の環境アセス、「幅12キロの範囲内」
北陸新幹線の敦賀(福井県)・新大阪間は、ルートを巡る議論が続いている。国交省鉄道局が9月10日の連絡会議に出した説明資料によると、与党の「北陸新幹線敦賀・新大阪間整備委員会」が、日本維新の会からの提案を受けて2025年12月にルートの再検証を始め、2026年7月15日に「小浜・京都ルートの桂川案」を、着工の条件を満たすことを目指すルート案として示した。
小浜・京都ルートには、京都の駅の位置で「南北案」と「桂川案」の2案があった。与党のとりまとめは、東海道新幹線の京都駅と直結する南北案の方が利便性や経済波及効果で優位と認めた。そのうえで、南北案は文化・歴史的建造物の密集地を通り、南北の地下水の流れと交差するとの指摘も残るため、京都府と京都市の同意を得られる見込みに「とりわけ乏しい」とし、桂川案を選んだ。
会見で記者は、桂川案に地元の住民団体から批判が出ていると指摘した。記者の質問によれば、環境影響評価法で軽微な変更とされるのは事業実施区域の位置の修正が300メートル以内の場合で、京都駅から桂川駅までは5キロ離れている。そのため評価をやり直す必要があるのではないか、やり直せば費用対効果が米原ルートを下回るのではないかと尋ねた。
井林氏は、2019年11月の方法書は最大幅12キロを事業実施区域としており、「桂川案のルートは、この事業実施区域の範囲内にあるため、御指摘のような環境影響評価のやり直しを行う必要はない」と答えた。300メートルの規定との関係を重ねて問われても、「幅が12キロで方法書を作成しており、その枠内に収まっています」と述べた。環境省も同じ見解かとの問いには、「環境省の御判断について私の立場から申し上げることはない」と答えるにとどめた。
着工には5つの条件、地元の負担をどう減らすか
整備新幹線を着工するには「着工5条件」を満たす必要がある。国交省の資料によると、①安定的な財源見通しの確保②収支採算性③投資効果④JRの同意⑤並行在来線の経営分離についての沿線自治体の同意――の5つだ。
| 条件 | 内容 |
|---|---|
| ① | 安定的な財源見通しの確保 |
| ② | 収支採算性 |
| ③ | 投資効果 |
| ④ | JRの同意 |
| ⑤ | 並行在来線の経営分離についての沿線自治体の同意 |
与党のとりまとめは、建設で出る土の処分、地下水への影響、工事中の交通渋滞、文化財への影響などを避け、京都市が表明している「5つの懸念・課題」を解消して、沿線自治体の同意を得ることを目指すとした。地元の負担を減らす方法として、鉄道・運輸機構が建設した施設を借りるJRが払う貸付料の拡充(金沢・敦賀間並みに総工費の75%以上を目指す)、国と地元が2対1で負担する今の仕組みの変更、国際観光旅客税の活用、地方財政措置の拡充を挙げた。
国交省はこれを受け、福井県・京都府・大阪府の副知事と鉄道・運輸機構の理事、鉄道局次長でつくる連絡会議を設け、9月10日に初会合を開いた。桂川案を前提に、環境アセスの手続きと着工5条件の検討について情報を共有する場だ。2027年度予算の概算要求では、整備新幹線の整備事業費補助として事業費3977億円(国費803億7200万円)を求め、敦賀・新大阪間の新規着工に要る経費は、金額を示さない「事項要求」とした。
井林氏は会見で「北陸新幹線の一日も早い全線開業に向けて、鉄道・運輸機構とともに、丁寧かつ着実に取り組んでまいります」と述べた。
第2青函トンネル、「課題も多々存在する」
第2青函トンネルについて記者は、大臣がこれまで党の議員連盟などで構想を進めてきたことに触れ、国交省として技術面や事業費、費用対効果を検証し、具体的な事業として検討する可能性があるかを尋ねた。
井林氏は、民間の団体から構想が発表されたり、自身が所属する議員連盟でも検討が行われたりしていることは「事実です」と認めた。そのうえで、物流の効率化や国土強靱化の効果が期待される一方、「事業費の問題や技術的な面も含めて検討すべき課題も多々存在する」と述べた。「今、国土交通大臣という立場ですので、まずは関係者間の検討状況を引き続き見守っていきたいというのが基本的なスタンスです」と語り、国交省として検証に入るかどうかには触れなかった。
今の青函トンネルは、北海道新幹線と貨物列車が同じ線路を走る。国交省が10月29日の審議会の小委員会に出した資料によると、北海道新幹線の札幌延伸に伴う鉄道物流を議論した有識者検討会議は2025年9月の中間とりまとめで、少なくとも札幌延伸の開業時点では函館線の函館・長万部間を維持し、貨物鉄道の機能を確保する必要があるとの結論を出した。新幹線の高速化と貨物列車の共存を図る「青函共用走行問題」にも引き続き取り組むとしている。資料は、札幌延伸の完成・開業は「概ね2038年度末頃」と見込まれるとした国交省の有識者会議の報告書にも触れている。
鉄道網の議論、国鉄改革から40年を前に
会見で最初に問われたのは、鉄道ネットワーク全体の在り方だった。国交省は10月29日、交通政策審議会鉄道部会の下に「持続可能な鉄道ネットワークの在り方に関する検討小委員会」を設け、初会合を開いた。委員長は山内弘隆・一橋大学名誉教授で、委員は8人。JR旅客6社とJR貨物、全国知事会などがオブザーバーに入る。国鉄の分割・民営化から2027年で40年になるのを前に、当時の考え方を振り返り、その後の変化を踏まえて議論するとしている。
国交省の資料によると、国鉄改革のときは、旅客の輸送密度(1キロ当たり1日の平均の利用者数)が4000人未満の線区を、一部の例外を除いて廃止かバスに転換するとした。小委員会の開催趣旨は、人口減少や物件費・人件費の上昇で、ローカル線だけでなく全国の鉄道網を維持することが課題になったと書く。2026年4月の別の検討会のとりまとめは、国が「維持すべき基幹的ネットワーク」を定め、その維持に安定的な財源が必要ではないかと提言していた。ローカル線の維持を巡っては、国会でも災害で止まった路線の復旧支援が取り上げられている(国民民主・舟山氏、米坂線の復旧「4年以上目処立たず」 鉄道にも道路並みの災害支援を要求)。
井林氏は、在来線は国鉄の分割・民営化以降、基本的に民間事業として運営されてきたとし、ローカル線には再構築協議会などの仕組みがある一方、特急列車や貨物列車が走る幹線も「厳しい環境に置かれています」と述べた。小委員会では「国家的観点から維持していくべき『基幹的ネットワーク』とはどのようなものか」と、それを持続させる方策を中心に検討してほしいと語った。
リニア中央新幹線の工事費の増額を巡る報道についても問われ、井林氏は報道は承知しているとしたうえで、品川・名古屋間はJR東海が工期を精査していると説明した。工事費については「御質問のような事実は承知していません」と答えた(JR東海の公表値の経緯はリニア総工事費、JR東海の公表値は11兆円のまま 再増額の発表なし、当初の約2倍)。
