国民民主党・無所属クラブの西岡義高氏(神奈川18区)ら2人が衆院に提出した「特別市の設置に係る制度の整備の推進に関する法律案」が、10月5日に召集された第222回臨時国会で、衆院の地域活性化・こども政策・デジタル社会形成に関する特別委員会に付託され、審議中となっている。政令指定都市を都道府県から切り離し、都道府県と市の仕事を一手に担う「特別市」をつくれるよう、制度の整備を政府に求める内容だ。設置を決める住民投票は市の側だけで行うとし、道府県全体での住民投票は定めていない。

政府に1年以内の法整備を求める「推進法」

法案は、特別市そのものを直ちにつくる法律ではない。目的・基本理念・国の責務を定め、具体的な制度は政府に整えさせる「推進法」の形を取る。第6条で、政府は法案の基本方針に基づき法制上、財政上または税制上の措置を講じるとし、このうち法制上の措置は「この法律の施行後一年以内を目途として講ずる」と期限を書き込んだ。施行は公布の日とした。

特別市とは、都道府県に包括されない「一層制」の地方公共団体を指す。現行の政令市は、道府県の区域の中にある市だ。法案は第3条の基本理念で、特別市の区域では都道府県と市町村の事務を一元的に処理する仕組みを整え、「効率的かつ機動的な行政運営」を図るとした。区域を失った側の都道府県は、残る市町村の補完・支援や、都道府県の区域を超える広域的な施策に事務を集中させる。

法案の第7条は、特別市を地方自治法の「特別地方公共団体」と位置づけた。都道府県や市町村と並ぶ「普通地方公共団体」ではなく、地方自治法上、特別地方公共団体は特別区、地方公共団体の組合、財産区とされており、特別市はこれと同じ区分に置かれる。

特別市が処理する事務は「地域における事務」などのうち、法律や政令で普通地方公共団体が処理するとされているものを原則とする(第10条)。ただし、都道府県が管内の市町村との連絡調整のために行う事務などは除く。広域で処理する方がよい事務は都道府県と連携・調整し、必要なら共同で処理できる。周辺の市町村と組んで地域全体を活性化させる事務では、広域連携を進めるとした。

組織については、議会、市長、副市長などの執行機関を置き、市長の事務を分担させるため条例で区を設ける(第9条)。区には市長が議会の同意を得て選ぶ区長を置き、議会には区ごとに選ばれた議員でつくる常任委員会を設ける。党の概要資料は、この常任委員会を「住民代表機能の強化」と位置づけている。

対象は人口100万以上、隣の市町村と合わせても可

法案の第2条は、特別市になり得る「関係指定都市等」を3通りに定めた。①人口100万以上の政令市、②政令市と隣接する市町村を合わせて人口100万以上、③政令市、隣接する市町村、そのさらに隣の市町村を合わせて人口100万以上――である。人口は地方自治法第254条により「官報で公示された最近の国勢調査又はこれに準ずる全国的な人口調査の結果による人口」で数える。

総務省統計局が公表した2025年国勢調査の市区町村別の人口に当てはめると、20の政令市のうち人口100万以上は横浜、大阪、名古屋、札幌、福岡、川崎、神戸、京都、さいたま、広島、仙台の11市になる。最も多い横浜市は375万952人、11市目の仙台市は109万6146人だった。

政令市 2025年の人口 2020年の人口 単独で100万以上
横浜市 3,750,952人 3,777,491人 該当
大阪市 2,805,371人 2,752,412人 該当
名古屋市 2,345,186人 2,332,176人 該当
札幌市 1,961,996人 1,973,395人 該当
福岡市 1,662,793人 1,612,392人 該当
川崎市 1,559,571人 1,538,262人 該当
神戸市 1,494,997人 1,525,152人 該当
京都市 1,430,062人 1,463,723人 該当
さいたま市 1,344,865人 1,324,025人 該当
広島市 1,171,915人 1,200,754人 該当
仙台市 1,096,146人 1,096,704人 該当
千葉市 994,846人 974,951人 -
北九州市 903,592人 939,029人 -
堺市 802,648人 826,161人 -
浜松市 765,254人 790,718人 -
新潟市 759,139人 789,275人 -
熊本市 730,882人 738,865人 -
相模原市 718,908人 725,489人 -
岡山市 707,387人 724,691人 -
静岡市 658,781人 693,389人 -
政令指定都市20市の人口(2025年国勢調査の人口の多い順。2020年は組み替え後の人口)

出典: 総務省統計局「令和7年国勢調査 都道府県・市区町村別の主な結果」

単独では100万に届かない政令市もある。千葉市は99万4846人で、2020年の97万4951人から増えたが、100万を5154人下回る。北九州市は90万3592人で、2020年の93万9029人から減った。法案の②③の形を使えば、こうした政令市も隣の市町村と区域を合わせ、人口100万以上の特別市を目指すことができる。

なお、どの国勢調査の結果が「官報で公示された最近の」人口に当たるかは公示の時期で決まるため、法案が成立した時点で基準となる人口がこの数字と一致するとは限らない。

設置の手続き 議会承認、市側の住民投票、国会承認

設置の手続きは第8条に定めた。まず政令市(隣接市町村と合わせる場合はそれらの市町村)と、それを含む道府県が協議会を設け、特別市の名称・区域など必要な事項を書いた「特別市設置協定書」をつくる。協定書はそれぞれの議会の承認を得る。すべての議会が承認すれば、市側は特別市の設置を住民投票にかけ、それぞれ有効投票の過半数の賛成を得る。そのうえで市と道府県が共同で申請し、内閣が国会の承認を経て設置を定める。

住民投票の告示日から投票日までの期間は、関係する市町村と道府県の議会議員選挙や首長選挙の告示から投票日までの期間と重ならないようにする、とも定めた。国民民主党は同じ6月24日、大都市地域特別区設置法を改め、特別区設置の住民投票を地方選挙と同時に行えないようにする改正案も衆院に提出している。

総務省が9月17日の第34次地方制度調査会第9回専門小委員会に示した資料は、自治体の再編の手続きを並べている。法案の手続きは、二つの既存の制度を組み合わせた形になる。

手続き 始まり 住民投票 決定
特別市(国民民主案) 市と道府県の協議会・議会の承認 市の側のみ 共同申請→国会の承認→内閣
特別区の設置(大都市地域特別区設置法) 市町村と道府県の議会の議決 関係市町村のみ 総務大臣
申請による都道府県の合併(地方自治法) 関係都道府県の議会の議決 要しない 国会の承認→内閣
法律による都道府県の廃置分合(地方自治法) 国の法律の制定 関係都道府県(憲法95条) 法律の施行
自治体の再編の手続きと国民民主案の比較

出典: 法案(衆議院)、第34次地方制度調査会第9回専門小委員会 資料3・資料4(総務省)

住民投票を市の側に限るのは、2012年に議員立法で成立した大都市地域特別区設置法と同じ考え方だ。一方で、最後に国会の承認を経て内閣が決める点は、都道府県が申請して合併する手続きにならった。

指定都市と知事会で割れる「誰が決めるか」

住民投票を市の側だけで行うかどうかは、地方制度調査会で指定都市と都道府県の主張が正面から分かれている論点だ(政令市を県から切り離す「特別市」、住民投票は市だけか県全体かで対立 地方制度調査会が議論 神奈川県議会は105人中67人が3政令市選出)。

総務省の資料は、指定都市市長会の2025年11月の報告書と、全国知事会の2026年7月の中間とりまとめをもとに双方の主張を整理している。指定都市側は「市単位の住民投票により住民の意思を確認する必要がある」とし、特別市以外の都道府県民には、都道府県の住民サービスや名称を含めて「直接的な不利益は与えない」と説明する。都道府県側は、特別市に移れば「残された都道府県民に大きな影響が生じることは明らか」として、住民投票は都道府県単位で行うべきだとしている。

国民民主党の法案は、この論点で指定都市側の主張に沿う。道府県側の意思は、協定書を承認する道府県議会の議決で確かめる形になる。

財源の配分も対立点だ。特別市が区域内の地方税を一元的に徴収すれば、残る都道府県の税収は減る。法案は第11条で、特別市と区域を失った都道府県の間の「財源の均衡化を図るための財政の調整に関する制度」などについて「検討を加え、必要な措置を講ずる」と書くにとどめ、配分の方法までは定めていない。国と都道府県が連携・調整する仕組みを整え、都道府県の区域を超える広域的な行政を進めることも求めた。

衆院で継続審査、参院版は審査未了

衆参の議案情報によると、法案は第221回国会の6月24日に衆院へ提出され、7月9日に同じ特別委員会に付託された。7月24日の委員会と本会議で継続審査となり、第222回国会の召集日の10月5日に改めて付託された。提出者は西岡氏と臼木秀剛氏(北海道1区)で、玉木雄一郎代表ら同党の衆院議員26人が賛成者に名を連ねる。

党の発表によると、提出後、党の地方制度調査会長の足立康史参院議員は「首都機能・副首都のあり方、その基礎となる大都市制度のあり方、そして大都市制度を決める時の住民投票のあり方。この3つのテーマが並行して動くことになる」と述べた。

国民民主党は7月15日、ほぼ同じ内容の法案を参院にも提出した。党は「衆議院における審議等を踏まえ、必要な修正を加えて」提出したと説明している。両案の要綱を比べると、参院版は附則に、特別市の制度整備の検討と併せて「特別市以外の大都市における地方行政に係る体制の在り方」についても政府が検討を続ける規定を加えた。参院版は7月21日に参院の沖縄・北方問題及び地方に関する特別委員会に付託されたが、会期内に議決されず審査未了となった。

提出後、党の地方制度調査会副会長の奥村祥大参院議員は「大都市制度いわゆる都構想は都道府県の府側、つまり大阪の場合には大阪府が強くなるが、政令市側が強くなるという選択肢があってしかるべきだ」と述べ、「どちらが良いかというのはその地域に住む皆さんが決めるべきだ」と語った。

政府側では、第34次地方制度調査会が特別市を含む大都市制度を審議している。10月14日の第10回専門小委員会に示された日程案では、11月からの第11回で特別市を含む審議項目について自治体からの聞き取りと中間報告に向けた議論を始め、2027年1月ごろの第3回総会で中間報告、同年12月ごろに最終答申を出す。法案は「施行後1年以内」の法整備を政府に求めるが、財源の配分は第11条で「検討を加え」るとするだけで、道府県側の住民の意思をどう確かめるかも道府県議会の議決に委ねている。国会は、この2点で残る道府県の住民に何が起きるのかを、地方制度調査会の議論と併せて詰めたうえで法案の是非を判断すべきだ。