国家公務員と地方公務員が予備自衛官を兼ねやすくする特例法が、2027年4月1日に施行される。政府は2026年9月4日の定例閣議で、施行期日を定める政令を決定した。法律の正式名称は「予備自衛官等の職務の円滑な遂行を図るための国家公務員及び地方公務員の兼業の特例に関する法律」で、2026年6月17日に令和8年法律第40号として公布されていた。
施行後は、所轄庁の長や任命権者の承認を一度受けた公務員について、予備自衛官などの職務に就くための兼業の許可が要らなくなる。招集に応じて職場を離れる時間には、職務に専念する義務の規定が適用されない。
予備自衛官は、退職した元自衛官などが平素はそれぞれの職業に就きながら、有事や災害の際に招集命令を受けて自衛官となる制度だ。防衛省は予備自衛官、即応予備自衛官、予備自衛官補の3つを設けている。防衛白書によると、予備自衛官は後方支援や基地警備などの要員として、即応予備自衛官は第一線部隊などの一員として、現職自衛官とともに任務につく。予備自衛官補は自衛官未経験者などから採用され、教育訓練の修了後に予備自衛官へ任用される。
いつから・誰が対象か 施行は2027年4月1日
法律の附則第1項は「この法律は、公布の日から起算して一年を超えない範囲内において政令で定める日から施行する」と定めていた。この書き方の場合、法律そのものには施行日が書かれておらず、あとから内閣が政令で日付を決める。期限は公布から1年なので、2027年6月16日までのどこかになることだけが確定していた。
その政令が2026年9月4日の定例閣議で決定された。首相官邸が公表した同日の案件一覧には、政令の項目に「予備自衛官等の職務の円滑な遂行を図るための国家公務員及び地方公務員の兼業の特例に関する法律の施行期日を定める政令(決定)」と記されている。デジタル庁が運営するe-Gov法令検索のデータでも、この法律の施行日は2027年4月1日と登録され、2026年10月24日時点では未施行の扱いである。公布から約9か月半、期限より2か月半ほど早い日付になった。
対象は一般職の国家公務員と一般職の地方公務員で、条文は、予備自衛官や即応予備自衛官に新たに任用されようとするときのほか、任期を終えて引き続き任用されようとするときなどに承認を受けられると定める。法案要旨によると、裁判所職員にも同様の規定が準用され、自衛隊員についても準用されたうえで給与の扱いは政令で定める。
何が変わるか 招集のたびの許可が不要に
国家公務員法や地方公務員法は、公務員が報酬を得てほかの職を兼ねることを原則として制限しており、兼ねるには許可が要る。新法はこの手続きを簡略化する。一般職の国家公務員は予備自衛官などに任用されようとするときなどに、所轄庁の長の承認を受けることができる。この承認を受けた職員が予備自衛官の職務に従事することについては、国家公務員法が定める兼業の許可を要しない。地方公務員についても、任命権者の承認を受ければ地方公務員法の兼業許可が不要になる。
さらに、承認を受けた職員が招集命令、訓練招集命令、教育訓練招集命令を受け、勤務時間中に招集へ応じるため職場で勤務しない場合、その時間には職務に専念する義務の規定が適用されない。訓練で平日に職場を離れても、職務の放棄として扱われなくなるということだ。
ただし、給与は払われない。条文は、承認を受けた国家公務員が招集に応じて勤務しない場合、一般職の職員の給与に関する法律第15条の規定にかかわらず、勤務しない1時間につき勤務1時間当たりの給与額を減額すると定める。職場を離れた時間は予備自衛官としての手当で補う形になり、本業の給与と二重には受け取らない仕組みである。
第7条は「国は、広報活動、啓発活動その他の活動を通じて、予備自衛官等の職務の重要性に対する国民の関心と理解を深めるよう努めなければならない」と国の責務を定めた。小泉進次郎防衛相は衆院安全保障委員会で、この広報を通じて特例を周知し、予備自衛官らを雇う企業にも公務員に倣った措置を取ってもらうことを期待すると述べている。
予備自衛官を兼ねる公務員は約1500人
小泉防衛相は2026年5月15日の衆院安全保障委員会で、充足状況について「令和6年度末において、予備自衛官は約七割の約三万二千人、そして即応予備自衛官は約五割の約三千九百人」と答弁した。令和8年版防衛白書によると、2026年3月31日現在の法令上の定員は予備自衛官が4万7900人、即応予備自衛官が7981人、予備自衛官補が4621人である。
このうち公務員が占める割合は小さい。防衛省の廣瀬政府参考人は同じ委員会で、予備自衛官などを兼業する国家公務員と地方公務員は令和6年度末時点で約1500人だと述べた。内訳は予備自衛官が約1300人、即応予備自衛官が約50人、予備自衛官補が約100人で、それぞれが全体に占める割合は約4%、約1%、約3%だった。チームみらいの山田瑛理氏の質問によると、国家公務員と地方公務員の別では国家公務員が約350人、地方公務員が約1110人である。
施行でどれだけ増えるのかについて、政府は見込みを示していない。山田氏が効果予測と目標設定をただしたのに対し、廣瀬氏は、勤務先や職員が担う職務の内容が様々であることなどを挙げ「一概に数値目標の設定や予算規模の試算を行うことは困難である」と答弁した。中道改革連合の野間健氏の質問に、小泉氏も効果は一概に答えることが困難だとしたうえで、特例が国家公務員らの意欲の向上につながり、新たに志願するきっかけになり得ると述べるにとどめた。
常備の自衛官も定員を割り込んでいる。防衛白書は、自衛官の定員24万7154人に対し2026年3月31日現在の現員が21万7701人で、充足率が88.1%だったと記した。詳しくは自衛官の充足率88.1% 定員24万7154人に対し現員21万7701人 最前線を担う「士」は57.8%にとどまる 令和8年版防衛白書で伝えた。入隊した日から自衛官とする制度の見直しは「自衛官候補生」制度が10月1日に廃止の通りである。
災害での招集は8回 能登半島地震では203人
予備自衛官と即応予備自衛官が実際に招集された例は、これまで災害派遣などの8回だ。廣瀬氏が委員会で示した実績は次の通りである。
| 災害など | 予備自衛官 | 即応予備自衛官 |
|---|---|---|
| 2011年 東日本大震災 | 294人 | 1352人 |
| 2016年 熊本地震 | — | 162人 |
| 2018年 7月豪雨 | — | 311人 |
| 2018年 北海道胆振東部地震 | — | 251人 |
| 2019年 東日本台風 | 52人 | 361人 |
| 新型コロナウイルス感染症への対応 | 10人 | — |
| 2020年 7月豪雨 | 54人 | 300人 |
| 2024年 能登半島地震 | 20人 | 183人 |
8回のうち7回で即応予備自衛官が招集され、人数も多い。即応予備自衛官は年30日の訓練に出頭する前提の制度で、平日に職場を離れる日数は予備自衛官より多い。能登半島地震では、医師や看護師の資格を持つ予備自衛官らが巡回診療などの衛生支援に、即応予備自衛官が物資輸送に就いた。
招集に応じなかった場合の扱いも委員会で問われた。小泉氏は、防衛出動には罰則があるが、国民保護等招集や災害での招集には基本的に罰則を設けていないと説明した。兼業する公務員が招集を受けた場合は、本来の仕事との調整を地方協力本部などと行うことになる。自衛隊の災害派遣そのものの件数は自衛隊の災害派遣は令和7年度339件で過去10年最少の通りである。
手当と企業向け給付金 数値目標のない特例の限界
処遇面の見直しも並行して進んでいる。防衛白書によると、2026年4月1日時点の手当は、予備自衛官が月1万3100円と訓練招集手当1日1万1600円、即応予備自衛官が月1万9700円と訓練招集手当1日1万8200〜2万7200円、予備自衛官補が教育訓練招集手当1日9300円である。1任期を優良な成績で勤務した場合の勤続報奨金は、予備自衛官が新設の7万円、即応予備自衛官が9万5000円増の21万5000円となった。
雇用する側への給付金もある。即応予備自衛官雇用企業給付金は月4万2500円、予備自衛官補出身の予備自衛官が即応予備自衛官に任用された場合の即応予備自衛官育成協力企業給付金は1人あたり56万円だ。防衛出動や災害派遣で予備自衛官や即応予備自衛官が招集に応じた場合などに雇用主へ払う雇用企業協力確保給付金は1日3万4000円、個人で事業を営む予備自衛官らに払う予備自衛官事業継続給付金も1日3万4000円で、後者は2025年度に新設された。廣瀬氏は、こうした見直しで令和7年度の退職時の志願者数が約3000人となり、前年度の約2200人から増える見通しだと答弁した。
法案は2026年4月3日に内閣が第221回国会(特別会)へ提出した。衆院では5月15日に安全保障委員会、19日に本会議で可決。参院では6月9日に外交防衛委員会、10日の本会議で賛成226、反対16で可決した。反対したのは日本共産党の7人、れいわ新選組の5人、沖縄の風の2人、社会民主党の2人である。
日本の安全保障から見れば、特例は必要な手当てだが、それだけで足りる規模ではない。防衛白書は、有事には必要な自衛官の所要数を早急に満たさなければならないと書き、廣瀬氏は予備自衛官を「継戦能力の上でも重要な存在」と位置付けた。常備の自衛官が定員の88.1%にとどまるなか、その不足を有事に埋める予備自衛官も約7割、即応予備自衛官は約5割しかいない。公務員の兼業者約1500人は予備自衛官全体の約4%で、手続きを軽くしても、増える人数には限りがある。政府が増加の目標を置かないまま施行すれば、2027年4月以降に特例が充足率をどれだけ動かしたのかを検証する物差しがない。防衛省は年内に国家安全保障戦略など「三文書」を改定する方針で、小泉氏は予備自衛官補の採用促進に向けた制度の拡充や訓練実施場所の拡大を検討すると述べている。改定で、公務員の兼業者数と充足率の目標を示せるかが次の焦点になる。
