財務省は11月4日の財政制度等審議会財政制度分科会に社会保障の資料を示し、70歳以上の医療費の窓口負担について、年齢によらず「原則3割」とすることを目指し、着実に引き上げていくべきだとした。70歳以上の外来の自己負担に低い月額上限を設ける高額療養費の「外来特例」も、廃止すべきだとした。いずれも財務省が審議会に出した資料の考え方で、政府の決定ではない。政府は7月の「骨太方針2026」で、窓口負担を見直す改革工程表を2026年末までに策定するとしており、自民党と日本維新の会の協議が10月21日に再開している。
今は70〜74歳が原則2割、75歳以上が原則1割
医療機関の窓口で払う自己負担の割合は、年齢と所得で決まる。69歳以下は原則3割で、70歳を迎えると下がる。財務省の資料によると、現行の仕組みは次のとおりである。
| 年齢 | 原則 | 例外 | 外来特例 |
|---|---|---|---|
| 69歳以下 | 3割 | 義務教育就学前は2割 | なし |
| 70〜74歳 | 2割 | 現役並み所得者(約11%)は3割 | あり |
| 75歳以上 | 1割 | 一定以上所得者(約20%)は2割、現役並み所得者(約7%)は3割 | あり |
「現役並み所得」は課税所得145万円以上で、年収が単身で約383万円以上、複数で約520万円以上の人を指す。「一定以上所得」は課税所得28万円以上で、年金収入とその他の合計所得金額が単身で約200万円以上、複数で約320万円以上の人である。資料は、70歳以上の窓口負担は1割か2割の人が9割を超えるとしている。
財務省はこのうえで、低所得者などの必要な受診が確保されるよう適切に配慮することを前提に、窓口負担は年齢によらず「原則3割」を目指すべきだと記した。あわせて、後期高齢者医療制度で進む金融所得の勘案を前期高齢者にも広げること、マイナンバー制度を使った資産の勘案を工程表に位置付けて検討することも求めた。後期高齢者医療制度の金融所得の扱いは、75歳以上の保険料、株の配当を反映へ 2029年8月から窓口負担も 厚労省が工程案で報じた。
窓口負担の項目には、いつまでに、どの所得層から何割へ上げるかの段取りは書かれていない。
70歳を境に医療費は増え、自己負担は減る
財務省が引き上げの根拠に挙げたのは、まず年齢による負担の差である。資料の年齢階級別の数字では、65〜69歳は1人あたり医療費49.5万円に対し自己負担額が9.0万円で、負担割合は18.2%だった。70〜74歳になると医療費は63.0万円に増える一方、自己負担額は7.3万円に下がり、割合は11.6%になる。85歳以上は医療費114.1万円、自己負担額8.8万円で7.7%である。
年齢階級別の自己負担割合(%)
数値で見る(単位: %)
| 項目 | % |
|---|---|
| 60〜64 | 19.9 |
| 65〜69 | 18.2 |
| 70〜74 | 11.6 |
| 75〜79 | 9.1 |
| 80〜84 | 8.5 |
| 85〜 | 7.7 |
次に挙げたのは現役世代の負担である。2026年度予算を基にした資料によると、後期高齢者医療制度の給付費の財源は公費(税金)が9.8兆円で約5割、現役世代の保険料から出る支援金が7.7兆円で約4割、高齢者の保険料が1.9兆円で約1割を占める。現役1人あたりの支援金は月額6364円で、2008年の制度導入時の2.1倍になった。
家計の比較も示した。年収300万円の単身世帯を2024年の調査で比べると、可処分所得は世帯主が30歳未満で月20.3万円、70歳以上で月22.1万円だった。貯蓄現在高は30歳未満の177万円に対し、70歳以上は2057万円である。65歳以上の高齢者世帯の3割程度は2000万円以上の貯蓄を持つとしている。
受診への影響については、先行研究を引いた。自己負担が3割から1割に下がる70歳到達時を調べた重岡氏の2014年の論文は、外来と入院の利用が増える一方で、健康指標の改善は確認されなかったとする。財務省財務総合政策研究所の2025年の論文は、1割から2割への引き上げについて、健康状態を悪化させることなく受診時の支出を抑える効果を示唆したとする。財務省はこれらを「研究結果が全てではない」としつつ、参考になりうると記した。
外来特例は「激変緩和」の名残 69歳6万円、70歳2.2万円の試算
外来特例は、高額療養費制度の中で70歳以上だけに認められた仕組みである。世帯単位の通常の上限とは別に、外来について個人単位の低い月額上限を設ける。財務省の資料によると、2002年に高齢者の外来の負担月額上限を廃止して定率1割負担を徹底した際、外来の受診頻度が高いことなどを考慮し、負担の急増を緩和するために導入された。
厚労省の資料によると、2026年8月からの上限は、一般の所得区分が月2万2000円(年21万6000円)、住民税非課税が月1万1000円(年9万6000円)、住民税非課税で所得が一定以下の人が月8000円である。一般の区分は2026年の見直しで月1万8000円から引き上げられ、2027年にも所得区分の細分化などが予定されている。
財務省は、年収300万円で単身の69歳と70歳が同じ診療(医療費20万円)を受けた場合の試算を載せた。69歳は3割の6万円を払う。70歳は2割で4万円になるうえ、外来特例の上限が適用され、自己負担は2万2000円で済む。資料は、高額療養費の本体に月額上限や多数回該当、年間上限があることを踏まえれば、外来特例の「政策的合理性は乏しく、廃止すべき」とした。
廃止された場合に残る本体の上限は、一般の区分で世帯ごとに月6万1500円(多数回該当は月4万4400円)、住民税非課税で月2万5700円である。高額療養費の上限額を巡る国会の動きは高額療養費の議員立法、衆院厚労委で継続審査 上限額を決める前に家計調査と患者の意見聴取を求めるで報じた。
骨子と骨太方針は「見直し」 医師会は容認しない姿勢
財務省の資料は、政府と与党の文書より先の内容を含む。自民党と維新が7月7日に署名した「社会保障改革項目に関する具体的な骨子」と、7月21日に閣議決定した骨太方針2026は、いずれも70歳以上の窓口負担について「原則3割となっている現役世代との間で年齢によらない真に公平な応能負担を実現する観点から見直しを行う」と書いた。70歳以上を原則3割にするとは書いていない。検討項目は外来特例の在り方、負担割合の区切りとなる所得の見直し、年齢の引き上げで、現役の負担軽減の観点からの公費負担の在り方と合わせて年末までに「一定の結論」を得るとしている。
検討の場は2つある。厚生労働省の社会保障審議会医療保険部会は10月1日に議論を始めた。厚労省が整理した主な意見には「年齢だけで別のくくりとして特別扱いをするということは、合理性が非常に少なくなってきている」との趣旨の見方と、「自己負担を一律3割にするのは早計」との見方の両方が並ぶ。「現状のまま3割負担の方を増やせば現役世代の負担が逆に増加しかねない」との指摘もあった。この意見は、現役並み所得の後期高齢者の医療給付費に公費が投入されていない財源構成の見直しを求めている。厚労省の資料によると、1人あたりの受診日数は70〜74歳と75〜79歳で2008年度から3割程度減った。
与党協議について、上野賢一郎厚労相は10月23日の会見で「厚生労働省からご提案をする立場にはありません」と述べ、資料の提供などで支える考えを示した。7月10日の会見では、窓口負担を見直す場合は公費負担の在り方をあわせて検討する必要があるとの認識を示している。
日本医師会の松本吉郎会長は7月22日の定例記者会見で、「原則3割」と外来特例の廃止について容認できない姿勢を示した。高齢者には複数の疾患を抱える人や低所得の人が多いことを挙げ、後期高齢者は1割負担の人が73%を占めると説明した。そのうえで、応能負担の観点は必要だとしつつ、低所得者に配慮して「少しずつ段階を経る必要がある」と述べた。今回の資料への医師会の見解は確認できていない。
同じ年収で負担が変わる理由は年齢だけ 工程表は数字で示すべきだ
年収300万円の69歳と70歳が同じ診療を受けて、6万円と2万2000円の差が付く。この差を生むのは年齢だけで、所得でも病状でもない。2002年の激変緩和は24年続いている。後期高齢者医療の給付費の約4割を現役世代の支援金が賄う中で、年齢を理由にした軽減は公平の説明が難しい。所得のある高齢者に応分の負担を求める方向は、保険料を払う現役の側から見て妥当である。
一方、75歳以上の7割超は1割負担で、医師会が示した低所得層への配慮は見直しの前提そのものである。また、3割の人を増やせば現役世代の負担が増えかねないという部会の指摘が解消されなければ、改革の目的が逆になる。財務省の資料も「現役世代の保険料負担の軽減が確実に達成される制度設計」を求めるが、窓口負担の項目に軽減額の数字は無い。
保険料を払う現役世代と窓口で払う高齢者のどちらの立場でも、知りたいのは自分の負担である。年末の工程表には、どの所得層がいつ何割になるのか、配慮の対象は誰か、現役の保険料が1人あたりいくら下がるのかを、数字で書くべきではないか。
