消費者庁は11月6日、旅行大手エイチ・アイ・エス(HIS)が主要株主のH.I.S.Mobile(東京都新宿区)に対し、景品表示法に基づく措置命令を出した。海外用モバイルルーターのレンタルサービス「HIS Wi-Fi」の自社サイトで、「キャンペーン期間中のお申込み限定」とうたった45%引きは、期間後に申し込んだ方が高い割引率で借りられた。2025年12月からの「期間限定50%OFF」は、割引前の価格で提供した実績が最近の相当期間に無かった。消費者庁は、いずれも取引条件を実際より著しく有利に見せる「有利誤認表示」(同法第5条第2号)に当たると判断した。

「期間中のお申込み限定」でも、期間後の方が安かった

消費者庁の公表資料によると、問題とされた表示は2つある。

1つ目は2025年春の「春旅応援キャンペーン」だ。同社は2025年2月5日から5月8日まで、自社サイトで「Wi-Fi 無制限プラン レンタル料金 45%OFF」「2025年2月4日(火)~5月8日(木) ※キャンペーン期間中のお申込み限定」と表示していた。データ量に上限の無い「無制限プラン」を、期間内に申し込んだときだけ、期間後より有利な45%引きで借りられるかのように見せていた。

実際は逆だった。期間が終わった後に無制限プランを申し込むと、期間内に申し込むより高い割引率が適用された価格で借りられた。期間後の割引率が何%だったかは、消費者庁の公表資料にも同社の発表にも書かれていない。

「今申し込まないと損をする」と思わせる表示は、申し込みを急がせる。期間後に条件が良くなるのであれば、期間内に急いで申し込んだ利用者は、待っていれば受けられた割引を受けられなかったことになる。

「通常価格」で貸した実績が無かった「50%OFF」

2つ目は、2025年12月18日から2026年2月2日までの「初夢フェア 2026」だ。同社は自社サイトに「期間限定50%OFF」「1日あたりのレンタル料金 初夢フェア50%割引適応!」などと表示した(12月26日以降は「適用!」と表記)。割引前の価格が普段の価格で、それより半額安いかのように見せていた。

消費者庁によると、この割引前の価格は、最近の相当期間にわたって提供した実績の無い価格だった。普段その値段で貸していない価格を基準に「50%OFF」とうたえば、実際の値引きは表示より小さいか、値引きそのものが無いことになる。

キャンペーン 表示期間 表示の内容 消費者庁が認定した実際
春旅応援キャンペーン 2025年2月5日〜5月8日 無制限プランのレンタル料金45%OFF、期間中の申し込みに限る 期間後に申し込むと、期間内より高い割引率が適用された
初夢フェア 2026 2025年12月18日〜2026年2月2日 期間限定50%OFF、1日あたりのレンタル料金を50%割引 割引前の価格は、最近の相当期間に提供した実績が無かった
措置命令の対象となった「HIS Wi-Fi」の2つの表示出典: 消費者庁「H.I.S.Mobile株式会社に対する景品表示法に基づく措置命令について」

「最近相当期間」は8週間のうち過半が目安

割引前の価格を並べて安さを示す表示は「二重価格表示」と呼ばれる。消費者庁の指針「不当な価格表示についての景品表示法上の考え方」は、比較の基準にする過去の価格が「最近相当期間にわたって販売されていた価格」でなければ、不当表示に当たるおそれがあるとしている。

指針は目安も示している。セールを始めた時点からさかのぼる8週間(販売期間が8週間未満ならその期間)のうち、その価格で販売していた期間が過半を占めていれば「最近相当期間にわたって販売されていた価格」とみてよい。ただし、その価格で売っていた期間が通算2週間未満の場合や、その価格で売った最後の日から2週間以上たっている場合は、これに当たらない。

指針は、セールの後も価格を上げる予定が無いのに、セール後の価格を比較の基準に使う表示も不当表示の例に挙げている。今回の春旅応援キャンペーンは、期間後の方が条件が良かったという点で、「期間限定」という表示そのものが事実と違っていた。

命令は周知と再発防止、同社は「表示の根拠確認を強化」

措置命令は、①2つの表示が実際より著しく有利だと一般消費者に誤認させる表示で、景品表示法に違反するものだったと一般消費者に周知徹底すること、②再発防止策を講じて役員と従業員に周知徹底すること、③今後同様の表示をしないこと、の3点を命じた。

H.I.S.Mobileは同じ6日、自社サイトに「景品表示法に基づく措置命令に関するご報告とお詫び」を載せ、「措置命令を厳粛に受け止め」と謝罪した。再発防止策として、キャンペーン価格・割引率・比較対照価格の根拠となる販売実績などを確認してから掲載する体制の強化、広告の企画段階での根拠確認と承認手続きの厳格化、役員と関係する従業員への景品表示法の教育と監査体制の強化を挙げた。発表文には、期間内に申し込んだ利用者への返金などの対応は書かれていない。問い合わせは同社の専用フォームで受け付けている。

同社の会社概要によると、設立は2018年2月で、資本金は5000万円。主要株主はエイチ・アイ・エスと日本通信で、代表取締役社長は猪腰英知氏。海外用ルーターのほか、格安SIM「HISモバイル」も手がけている。今回の命令の対象は海外用ルーターのレンタルで、格安SIMの表示は含まれていない。

課徴金は別の手続き、命令は年々減っている

景品表示法は、有利誤認表示などに対し、措置命令とは別に課徴金の納付命令も定めている。対象期間の売上額の3%で、算定額が150万円未満なら命じられない(同法第8条)。今回の消費者庁の発表は措置命令についてのもので、課徴金についての記載は無い。

消費者庁が9月に公表した集計によると、国が出した景品表示法の措置命令は2025年度に13件で、2017年度の50件をピークに減ってきた。2026年度は8月末までに6件だった。年度ごとにみると、2018年度46件、2019年度40件、2020年度33件と減り、2021〜2023年度は41件、41件、44件で横ばいだったが、2024年度に26件、2025年度に13件と半減が続いた。

国の景品表示法の措置命令件数(直近6年度)(件)

0204060332020412021412022442023262024132025
年度。国の措置命令のみ出典: 消費者庁「景品表示法に基づく法的措置件数の推移及び措置事件の概要(令和8年8月31日現在)」
数値で見る(単位: 件)
項目件
202033
202141
202241
202344
202426
202513

件数の推移と背景は景品表示法の措置命令は2025年度13件 2023年度の44件から3年で3分の1以下 2024年10月に新設の「確約手続」認定が8件に増えるで詳しく伝えている。

指針の物差しに照らせば、「期間限定」「○%OFF」の表示が正しいかどうかは、割引前の価格で普段から貸していたか、期間が終わった後に条件がどう変わるか、の2点で決まる。今回の命令は、その2点のどちらも事実と違っていたと認定した。