財務省は11月5日、財政制度等審議会の財政制度分科会に「防衛」と題する資料を提出し、防衛省・自衛隊の装備品調達で、北大西洋条約機構(NATO)標準などの国際規格への適合を原則としていく案を示した。自衛隊の独自仕様についても「徹底的な見直し」を求めている。政府が年内に改定する安全保障関連3文書(国家安全保障戦略・国家防衛戦略・防衛力整備計画)を前に、財政当局が防衛費の使い方にまで踏み込んだ形だ。

独自仕様を見直し、民生品と新興企業を取り込む

資料の土台は、財務省が10月27日に政府の有識者会議へ提出した資料である。その内容は防衛産業を支える新法人の設立を検討 政府の有識者会議に資料 財務省は利払費16.6兆円を示すで伝えた。今回はこれに、防衛調達の在り方や経済安全保障など5ページ分の論点が加わった。

調達の項で財務省が問題にしたのは、防衛省・自衛隊が独自に定める仕様である。資料は、装備品の陳腐化や有事の枯渇、短期間で変わる戦い方に備える必要を挙げ、民生事業と両立させたい企業の参入障壁を下げる観点からも、独自仕様の見直しで「装備品調達の裾野を広げ、より迅速かつ安価に調達できるようにすべき」と記した。

現場の事例も載せている。経済産業省と防衛装備庁のガイドラインにある、下請けの中小企業からの指摘だ。民生事業で使うデジタル技術を防衛事業にも使おうと提案しても、発注元の企業は、仕様の変更には防衛省への報告と審査・認定に相当な労力がかかることを懸念し、従来の方法を続けるよう求めるという。

財務省が代わりの手法として挙げたのは「課題提示型」の調達である。防衛省・自衛隊が詳細な仕様を確定せず、解決したい課題を示して企業の提案を募る方式で、米国の国防イノベーションユニット(DIU)が活用している。資料によると、国内ではスタートアップの技術提案を公募する方式の案件が令和8年10月時点で4件あり、複数の企業と同時に契約して段階的に選抜する「防衛省版SBIR制度」は今年10月に初の公募を実施した。一方、部隊と企業が試作と改良を繰り返すアジャイル型の調達は「制度化されていない状況」だとしている。

資料はウクライナの例も引いた。官民連携の基盤「BRAVE1」に登録するドローン企業は、2022年時点の7社から2025年時点で500社以上に増えた。平時は民生品を作り、有事には装備品の大量生産に切り替えられる「防民共用」の生産基盤を築くことが重要だと、資料は説明している。

「平時から稼げる」 国際規格への適合を原則に

輸出の項で資料が掲げたのは、防衛産業が「平時から『稼げる』ことが肝要」という考え方である。有事に備えた予備の生産能力を、財政資金を効率的に使いながら確保するには、その設備を平時も動かして収益を上げる必要があるという理屈だ。

背景には輸出ルールの変更がある。防衛白書によると、完成品の移転が認められる場合はこれまで救難、輸送、警戒、監視、掃海の「5類型」に限られていた。財務省の資料は、この5類型が撤廃された現在、「装備品の海外移転の成功」が重要になるとし、防衛調達の在り方も海外展開を促す仕組みにすべきだと主張した。

具体策の一つが、NATO標準を例に挙げた国際規格への適合の原則化である。手本として示した英国の国防産業戦略(2025年)は「輸出を前提とした調達」を掲げ、装備品を輸出市場を念頭に設計する一方、英国固有の能力優位は保護するとしている。もう一つは、政府による移転の伴走支援だ。オーストラリアへの「もがみ」型護衛艦能力向上型の移転のように官民一体の体制を築く一方で、成果に直結する支援を続け、事業者から「対価を適正に得ていく」ことを提案している。

世界の軍事輸出に占める割合(2021〜2025年)(%)

米国42.0フランス9.8ロシア6.8ドイツ5.7中国5.6韓国3.0
SIPRI独自の指標(TIV)による。上位5か国と韓国(9位)を抜粋出典: 財務省「防衛」(2026年11月5日)が引くSIPRI "Arms Transfers Database"(2026年3月)
数値で見る(単位: %)
項目%
米国42.0
フランス9.8
ロシア6.8
ドイツ5.7
中国5.6
韓国3.0

ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)のデータに基づく資料によると、2021〜2025年の世界の軍事輸出の割合は米国が42.0%で、韓国は3.0%を占めて9位に入った。日本は2025年時点で韓国の約70分の1にとどまる。資料は経団連の提言も引き、日本の防衛装備移転の案件の約8割が自衛隊の装備品の修理などで、完成品の大型案件は「極めて限定的」だとしている。

戦費を支える財政基盤 利払費は過去最大の要求

資料は、防衛力と並べて財政基盤を論じた。有事には財政需要の拡大、外貨の流出、物価と金利の上昇が起き、戦略物資や生活必需品の調達に支障が出るおそれがあるとして、平時の経済・金融・財政の基盤を弱めないことが必要だと訴えている。

資料は、PHPの研究会が2026年9月にまとめた報告書から、ウクライナ戦争の教訓として「経済の継戦能力」(カネ)が戦況を左右するとの一節を引いた。同じページに載せた世界銀行のデータでは、侵略前の2021年度から2024年度にかけて、ロシアの国防費は4.86兆ルーブルから13.83兆ルーブルへ2.8倍、ウクライナは0.19兆フリヴニャから2.60兆フリヴニャへ13.9倍に増えている。

日本の足元はどうか。資料によると、10年物国債の金利は3%を超え、約30年ぶりの水準にある。普通国債の残高は1000兆円を超え、令和9年度の概算要求では利払費が16.6兆円と、令和8年度当初の13.0兆円から3.6兆円増えて過去最大となった。積算に使う金利も3.0%から3.8%に上がっている。

海上輸送への依存も示した。貿易に占める海運の割合はトン数ベースで99.5%(2024年時点)で、今年春には中東情勢に伴う海上輸送の混乱で原油の調達に重大な影響が生じた。経済安全保障推進法に基づく特定重要物資は16物資あり、これまでの予算の総額は2兆5518億円(2026年2月時点)にのぼる。

現行計画は「国債に頼らず」 改定後の額は示さず

財源の項は、現行の防衛力整備計画の整理にとどまる。計画の対象経費は令和4年度の5.2兆円から令和9年度に8.9兆円程度へ、約3.7兆円増える。財務省は増額分を「歳出改革、決算剰余金の活用、税外収入、税制措置により国債に頼ることなく賄っている」と説明した。資料の図によると、令和9年度の増額分の内訳は、歳出改革が1兆円強、決算剰余金が0.7兆円程度、防衛力強化資金が0.9兆円程度、税制措置が1兆円強である。

防衛力整備計画の対象経費(億円)

025,00050,00075,000100,00051,788令和466,001令和577,249令和684,748令和788,093令和889,000令和9
当初予算ベース。令和4年度は中期防衛力整備計画の対象経費。令和9年度は計画上の8.9兆円程度出典: 財務省「防衛」(2026年11月5日)
数値で見る(単位: 億円)
項目億円
令和451,788
令和566,001
令和677,249
令和784,748
令和888,093
令和989,000

税の負担はすでに動き始めている。令和8年度税制改正の大綱によると、防衛力強化のための税制措置の増収見込みは令和9年度で1兆3020億円となる。内訳は防衛特別法人税が9230億円、防衛特別所得税が2630億円、たばこ税の見直しが1160億円だ。国税庁によると、防衛特別所得税は令和9年1月1日以後に生じる所得について所得税額の1%が課され、同時に復興特別所得税の税率が2.1%から1.1%に下がるため、合計の税率は変わらない。大綱は復興特別所得税の課税期間を令和19年までから令和29年までに延ばすとしている。

資料は、2022年の有識者会議の報告書から「国債発行が前提となることがあってはならない」との一文も再び引いた。防衛力の抜本的強化とそれを補完する取り組みの予算を2027年度に国内総生産(GDP)比2%とする現行戦略の目標は、2025年度に当初予算と補正予算を合わせて前倒しで達成したという。2027年度の安全保障関連の経費は11兆円程度とする計画である。

ただし、今回の資料に、3文書の改定後の防衛費の規模や新たな財源の額は書かれていない。防衛省の令和9年度概算要求は、令和9年度の防衛費概算要求は8兆8432億円 今年度予算の8兆9843億円を1411億円下回る 三文書の改定待ちで「事項要求」に積み残しで伝えたとおり、改定に左右される事業を金額を示さない事項要求とした。防衛省の資料によると、現行計画に基づく事業の計上額は歳出ベースで約9兆円である。政府は骨太の方針2026で、必要不可欠な経費を積み上げて防衛力整備計画を作り、「財源の確保と併せて、国民に対して丁寧に説明する」としている。

調達の見直しは国益にかなう 財源の数字は3文書と同時に

財務省の提案のうち、調達の見直しは日本の国益にかなう。輸出と民生の市場で設備を動かせれば、有事の生産能力を税金だけで抱え込まずに済み、同じ予算で買える装備も増える。韓国の約70分の1という輸出の実績は、防衛産業がなお国内の需要に頼っていることを示している。5類型の撤廃で開いた市場に合わせて調達を変えるのは、理にかなった順序だ。

一方で、独自仕様のすべてが無駄なわけではない。手本の英国も固有の能力優位は保護するとしている。日本の地理と脅威に合わせた性能のうち、何を譲らず、何を国際規格に合わせるのかの線引きを、防衛省が装備ごとに示すべきではないか。

財源については、令和9年度の利払費の要求額16.6兆円が、防衛省が現行計画分として計上した約9兆円の約1.8倍にあたる。金利が上がるほど、国債で防衛費を賄う余地は狭まる。防衛力の強化と財政の信認は、どちらかを選ぶ関係にはない。

来年1月に防衛特別所得税の負担を始める納税者の立場に立てば、政府は年内の3文書の改定に合わせて、積み上げた経費の総額と財源の組み合わせを同時に数字で示すべきではないか。骨太の方針で約束した「丁寧に説明する」の中身はそこにある。防衛費の増額を国内の生産力と輸出の収益に変えられるなら、その負担には国力を高める裏付けが備わる。