会計検査院は9月29日、雇用調整助成金などの不正受給で国が取り立てるべき債権の管理が適時適切に行われていないとして、厚生労働大臣に対し、会計検査院法34条に基づく是正改善の処置を求め、あわせて36条に基づく意見を表示した。新型コロナウイルス感染症への対応で支給が急増した反動で、返してもらうべき債権が令和6年度末に747億円まで膨らむ一方、督促状すら送られていない債権が104億円分あった。

62億円から747億円へ

検査院の報告によると、不正受給や過誤払いが判明すると、都道府県労働局長は受給者に返還を命じ、その返納金債権を管理する。不正受給の場合は、受け取った額の2割に相当する額以下の損害賠償金を納めるよう命じることもできる。この二つを合わせたものが「不正受給返納金等債権」だ。

この債権は、令和元年度末は1780件・62億円だった。それが2年度末2013件・60億円、3年度末3693件・96億円、4年度末7606件・244億円、5年度末1万4074件・502億円と増え続け、6年度末には1万8814件・747億円になった。件数で約10.6倍、金額で約12.0倍である。

背景には支給規模の膨張がある。雇用調整助成金、緊急雇用安定助成金、休業支援金、休業給付金の4つを合わせた支給件数は、元年度は6401件・42億円にすぎなかった。それが2年度は416万8308件・3兆2789億円、3年度は591万8293件・2兆5767億円と跳ね上がり、元年度から6年度までの合計は1352万4351件・6兆8725億円に達した。検査院は、迅速な支給のために申請書類の簡素化と審査の迅速化が行われたことなどを背景に不正受給等が相次いだ、と整理している。

994件は督促状が送られていなかった

検査院は全国47労働局のうち13労働局(北海道、青森、福島、埼玉、千葉、東京、福井、愛知、滋賀、奈良、広島、高知、福岡)を選び、令和7年3月31日時点で管理されていた債権と、元年度から6年度までに不納欠損として整理された債権の計2054件・1039事業主等・214億4197万円余りを調べた。

その結果、福井を除く12労働局で、督促状の送付などが適時適切に行われていなかった債権が1037件・576事業主等・104億0630万円分見つかった。内訳は四つに分かれる。納入告知書を送った後に相当の期間納付がないのに電話や訪問による納付督励をしていなかったものが339件・21億8767万円分。督促状そのものを送っていなかったものが994件・102億0284万円分。督促状を送った後も納付がないのに法務大臣への強制履行の請求を依頼していなかったものが119件・5億2188万円分。債務承認書の提出を受けるなどの時効更新措置を一度も執っていなかったものが91件・2億5714万円分だった。

さらに3労働局では、消滅時効が成立してから1年以上たっても不納欠損として整理していなかった債権が41件・2億1241万円分あった。時効成立後も帳簿上は債権が残り、実態と合わない状態が続いていたことになる。督促状の問題と時効整理の問題を重複を除いて合計すると、1046件・581事業主等・104億7814万円分になる。

「件数が増えて対応できなかった」

報告書は具体例も挙げている。福島労働局は、ある事業主が令和2年度から4年度に不正受給した雇用調整助成金に関する債権4件・1598万円余りについて、6年8月に納入告知書を送った。しかし納付がないまま、納付督励も督促状の送付も1年以上行わなかった。理由として同労働局は、債権の件数が大きく増えて督促状の送付などに対応できなかったことなどを挙げている。検査院の指摘を受け、8年4月に納付督励、5月に督促状の送付をそれぞれ行った。

強制履行の請求を依頼していなかった労働局は、複数が「ノウハウがない」ことを理由の一つに挙げた。検査院が厚労省本省の指導を確認したところ、依頼時に作成する文書の記載事項を取扱要領に定める程度にとどまり、具体的な手順を示して適時適切に行うよう指導してはいなかった。

債権管理に充てられる人員が限られる点についても、厚労省本省は事務の一部を外部委託で対応したと説明した。しかし検査院は、事務の大半は依然として労働局が直接行っており、債権が大きく増えて債務者ごとに資力や状況も異なる中で、12労働局は個々の債権に応じた管理を十分に行える状況になかったと認定した。

求められた対応

検査院は、厚労省本省の指導が十分でないことと、効率的・効果的な債権管理の方策の検討が不十分であることを原因と認め、二つの措置を求めた。一つは、納付督励・督促状の送付・時効更新措置を適時適切に行うことと、消滅時効成立時に直ちに不納欠損として整理することについて、通達を発出するなどして労働局に改めて指導すること。強制履行の請求の依頼については、具体的な手順を示すよう求めた。もう一つは、多数の債権を効率的かつ効果的に管理するための方策を十分に検討したうえで講じることだ。

前者が是正改善の処置の要求(34条)、後者が意見表示(36条)にあたる。検査院はこの二つを使い分けており、同じ9月には在留カードを作るプリンタ、700台のうち103台が使われず 調達額5651万円余り 同じ入管局から3年で計100台の増設要望 会計検査院が指摘や災害時の緊急輸送道路にある橋、耐震補強した407橋・橋脚1128基で「耐震性能2」が確保されず 会計検査院が指摘 巻き立て部分の工事費111億3415万円分といった指摘も公表している。

報告書は、今後も経済社会情勢に大きな影響を及ぼす事由が生じて雇用調整助成金の支給要件が緩和され、支給件数が大きく増えれば、多数の不正受給返納金等債権が発生することが想定されると指摘した。コロナ下の対応で起きたことを、次に同じ規模の支給を迫られたときへの備えとして整理し直すよう求めた形である。