日本銀行は9月24日、植田和男総裁が18日の金融政策決定会合後に開いた記者会見の要旨を公表した。植田総裁は、政策金利を1.00%程度から1.25%程度へ引き上げた今回の決定について「政策の局面が変化した」と述べ、金融政策の短期的な狙いが、物価の基調的な上昇率を2%まで引き上げることから、2%で定着させることへ移ったと説明した。会見は18日午後3時30分から約75分間開かれた。

「2%まで上げる」から「2%で定着させる」へ

植田総裁は、これまでの政策運営について「基調的な物価上昇率が2%より低いとみられる中で、それを上昇させることが、ある意味、短期的な政策の狙いでした」と振り返った。そのうえで「現在、基調的な物価上昇率が2%に接近しつつありますので」、2%を超えて上振れするリスクが表に出て経済に悪影響を及ぼすことがないよう「基調物価上昇率を2%程度の水準で安定させていくという観点が重要になっています。そういう意味で、政策の局面が変化したと考えています」と語った。

基調的な物価上昇率とは、天候による生鮮食品の値動きや一回限りの要因を取り除いた、物価の底流にある上昇の勢いを指す。日銀はこれを2%で持続的・安定的に保つことを目標に掲げており、目標に届いていない間は金融緩和を続けるという説明を長く続けてきた。届いたあとは、行き過ぎを抑える側にも動くことになる。

会見では記者から、局面変化という強い言葉をこれまでの会見で使った記憶がないと問われた。植田総裁は、局面が変わったといえる理由は「政策金利は1.25%になったということよりは、基調物価が2%より下にいたのが大体2%に近づきつつあるということ」だと答えた。2%に届いたと定量的に確認できるかどうかは、10月に公表する経済・物価情勢の展望(展望レポート)で点検するとした。

リスクの見方を「下振れ重視」から上下同じ重さへ

局面の変化は、日銀がリスクをどう見るかの変更としても説明された。植田総裁は「これまでは下振れリスク量は厚く、その結果としてですが、やや gradual な利上げのペースだったのが、ここからはリスクを対称的にみつつ、金利変更のタイミング、ペースを決めていくというアプローチになる」と述べた。

これまでは、物価が目標を下回る方向の危険を重く見積もっていたため、利上げは緩やかにならざるをえなかった。物価が2%より下で上振れても目標に近づくだけで支障がなかったからだ。今後は上振れも下振れも同じ重さで見るため、同じ経済指標を見ても判断が変わりうる。

会見では記者から「2024年3月にマイナス金利を解除して以降、市場では半年に1回のペースでの利上げが織り込まれてきました」と指摘があった。今回は6月に続く3か月ぶりの利上げで、間隔は縮まった形になる。ただ植田総裁は「3か月に1回とか何か特定のものを念頭に置いてるかと言われれば、それはない」と述べ、決まった間隔は想定していないとした。今回の決定の中身と企業への影響は日銀、政策金利を1.00%から1.25%程度へ引き上げ 賛成7・反対2 借入金利が同じだけ上がると1社平均で年46万円の利息負担増で伝えた。

次の一手は「基本的には利上げ」 大幅利上げも排除せず

先行きについて植田総裁は「次は基本的には利上げということだと思いますが、そのペースや大きさを判断していきたい」と述べた。0.25%を超える幅の利上げや、会合ごとに続けて利上げする可能性を問われると「物価情勢次第でいろんな可能性があると思いますので、特定のやり方を排除するということを前もって決めるということはできない」と答えた。

一方で「あまり急激に政策金利を引き上げて」金融環境に「大幅な調整が起こる」ことによる打撃を避ける観点も「ある程度は重要」だとした。大幅な利上げや連続利上げに追い込まれた例として2022〜23年の米国と欧州を挙げ、そうならないよう「前もって pre-emptive にいろいろな調整をしていく」方針を示した。

到達点については「中立金利まで金利を引き上げていくということを丁寧にやっていかないといけない」としつつ、「中立金利がどこにあるか分からないという中で進んでいかないといけない」と難しさを認めた。中立金利は景気を過熱も冷却もさせない金利水準で、実際に観測できる数字ではない。日銀内の推計の幅については日銀の増審議委員「さらなる利上げが金融正常化の完成に求められる」 政策金利1.0%は中立金利の推計1.1〜2.5%を下回る 17〜18日に決定会合で伝えた。

為替相場については「為替をコントロールする、為替をある領域、範囲に安定化させようとかそういう政策として行っているものではない」と改めて述べ、円相場の水準を目標に金利を動かすことはないとした。今後の判断材料としては、中東情勢、AI関連需要の拡大、為替相場の変動の3点を挙げ、2027年度の春闘も重く見るとした。

政策金利1.25%、気候変動対応オペは50兆円を上限に

18日の会合は、無担保コールレート(オーバーナイト物=金融機関どうしが担保なしで翌日返済の資金をやり取りするときの金利)の誘導目標を1.00%程度から1.25%程度へ引き上げることを賛成7、反対2で決めた。浅田委員は生鮮食品を除く消費者物価の上昇率が2%を下回るなかで経済も強いとはいえないとして据え置きを主張し、佐藤委員は経済・物価情勢が大きく加速しているわけではないとしてこのタイミングでの利上げは適切でないとした。日銀当座預金への付利金利は1.25%、基準貸付利率は1.5%とし、いずれも翌営業日の9月24日から適用された。

同じ会合では、民間の脱炭素投資を後押しする気候変動対応オペの見直しも全員一致で決めた。金融機関へ貸し出す際の金利を変動金利に改め、貸付総額の上限を50兆円、貸付先1社あたりの貸付限度額を10兆円とした。植田総裁は「ここまでのこの制度の利用のされ方をみた場合に、それを外挿して延長していった場合に、無理のない上限」であり、気候変動対応の融資に「すごいブレーキをかけたいという趣旨のものではない」と説明した。

記者から、米連邦準備制度理事会(FRB)と欧州中央銀行(ECB)、日銀が同じ月に利上げしたのは初めてだと指摘されると、植田総裁は「わりと共通の要因に反応してるという面がある」として、中東情勢から来るインフレ圧力と、AI関連の支出の強さを挙げた。FRBの利上げはFRB、3年2か月ぶり利上げ 政策金利を年3.75〜4.00%へ 12人全会一致、前回反対の3人が求めた水準にで伝えた。