総務省消防庁は9月28日、消防の現場にAIを導入するため、AI関連企業6社と消防機関等15機関の間で連携が成立したと公表した。最も多いのは119番通報にAIが自動で応答する技術で、5機関が参加する。消防庁は今後、経済産業省の生成AI開発支援プロジェクト「GENIAC」の事業への共同応募も視野に入れながら、技術開発と現場での実証を進めるとしている。

6社のうち1社に5機関が集まった

公表された組み合わせは四つの用途に分かれる。

119番通報の自動応答では、株式会社Quickが戸田市消防本部、西尾市消防本部、板野東部消防組合消防本部、ちば北西部消防指令センター(代表市・松戸市消防局)、津市・鈴鹿市・亀山市消防通信指令事務協議会の5機関と組む。119番と救急相談窓口「♯7119」の両方の自動応答では、株式会社ゼネラルが山形市消防本部と連携する。

現場指揮活動の判断支援では、株式会社モリタが前橋市消防局、四街道市消防本部、枚方寝屋川消防組合消防本部の3機関、NECネッツエスアイ株式会社が平塚市消防本部と大阪市消防局の2機関と組む。建物などの防火対策の支援では、株式会社ビズテックが須賀川地方広域消防組合、太田市消防本部、堺市消防局、下関市消防局の4機関、東北物産株式会社が戸田市消防本部と連携する。戸田市消防本部だけは通報の自動応答と防火対策の2件に名前が挙がっており、2社と並行して取り組むことになる。

このほか、株式会社減災ソリューションズが提案した災害情報の収集・集約・可視化とAI分析による消防活動の支援技術については、企業と消防機関の組み合わせではなく、消防庁自身が連携して検証を行う予定だという。

救急自動車は4.1秒に1回出動している

なぜ通報の受け付けと指令にAIを入れるのか。消防庁の「令和7年版 救急救助の現況」が置かれた数字がその背景を示している。

令和6年中の救急自動車による出動件数は771万8380件で、前年から7万9822件(1.0%)増えた。搬送人員は676万9172人で、前年から12万7752人(1.9%)増えている。1日平均では約2万1088件、平均すると4.1秒に1回の割合で救急自動車が出動したことになる。搬送された人のうち65歳以上の高齢者は428万4953人で63.3%、外来診療で済んだ軽症は317万1350人で46.8%を占めた。

現場到着までの所要時間は全国平均で約9.8分、病院に収容するまでは約44.6分かかっている。病院収容までの時間は同じ資料の推移図で42.8分、45.6分、44.6分と近年40分台半ばで推移しており、通報を受けてから搬送を終えるまでの一連の流れが長くなっている。搬送そのものの件数は、消防庁が確定値を出した8月の熱中症搬送は2万4956人 前年から6570人減 消防庁の確定値 高齢者が59.1%、発生場所は住居が最多のように季節や年による増減があるが、年間の総件数は増加が続いている。

指令業務は経験を積んだ職員の判断に支えられてきた。消防庁が3月に公表した「消防技術戦略ビジョン」は、AIの活用例として「119番通報の内容をAIが即時に分析し、指令員に必要な対応を提案」する仕組みを挙げ、救急出動の増加に伴う隊員の負担軽減にも自動応答や会話分析を当てている。

起点は3月の戦略ビジョン、経産省と組んで企業を集めた

今回の連携は、消防庁が令和8年3月30日に公表した消防技術戦略ビジョンから始まっている。ビジョンは外部の有識者と消防関係者で構成する「消防技術戦略会議」がまとめたもので、重点分野を五つ定めた。①AIの活用による高度な判断支援②ロボット・ドローンの活用による活動可能範囲の拡大③人間拡張技術の活用による個人の能力向上④IoT技術の活用による連携体制の強化⑤CBRNEテロや災害等への備えなど被害の軽減、である。AIはその筆頭に置かれた。

消防庁はその推進策として、6月24日に経済産業省のGENIACと協働して「GENIAC×消防庁 消防分野AI導入マッチングイベント」を開いた。消防庁が6月22日に公表した開催案内によれば、参加したのは消防本部などの消防関係者が約100名、AI関連企業が15社で、消防分野では初めての試みだった。消防庁側からAIの活用ニーズを示し、企業が技術を紹介する形をとった。イベント後に消防機関とAI関連企業を対象とした連携意向調査を行い、その結果として今回の組み合わせが決まった。参加した15社のうち6社が実際の連携にこぎ着けたことになる。

GENIACは生成AIの開発力向上と社会実装の加速を目的とした経産省のプロジェクトで、公式サイトによれば採択事業者は90を超え、参加企業・団体は300を超える。消防という公共の現場を、その社会実装先として位置づけた形だ。消防庁が現場の技術を実地で確かめる取り組みは、林野火災の空中消火に消火剤、消防庁が7県で検証 9月30日の岩手・釜石から11月まで 実際の薬剤ではなくダミー剤で散布手順を確かめるのように他の分野でも並行して進んでいる。

15機関は720本部のうちのごく一部

もっとも、今回名前が挙がった消防機関等は15にとどまる。消防庁の資料では、全国の消防本部は令和7年4月1日現在で720本部(単独432、組合288)あり、そのすべてで救急業務が行われている。消防本部・署を置いて救急業務を実施している市町村とこれらに事務を委託している市町村は、全国1719市町村のうち1690市町村(98.3%)に及ぶ。今回の15機関は、その全体像からすれば試行の段階にある。

消防庁は今年度の連携結果について、令和9年4月ごろに報告会を開き、全国の消防機関に共有する予定だとしている。119番通報の自動応答が実際の指令室で使えるかどうかは、その時点の報告を待つことになる。