人事院が令和8年6月に国会と内閣へ提出した令和7年度年次報告書(公務員白書)は、国家公務員の転勤を特集した。一般職の常勤職員約28万人を対象に令和7年12月から令和8年1月にかけて実施した無記名のウェブ調査で、有効回答10万7662人のうち、転勤に「できれば行きたくない」が36.5%、「絶対に行きたくない」が16.1%を占め、否定的な回答が合わせて52.6%となった。肯定は「条件が合えば行きたい」が42.2%、「どこにでもぜひ行きたい」が5.1%で、合わせて47.3%だった。

年次報告書は国家公務員法に基づき、人事院が毎年度の業務状況を国会と内閣に報告するもので、第1編第2部に特集を置く。今回の特集名は「公務における転勤の現状と今後について ~時代に応じた持続可能な公務を目指して~」で、転勤する職員が多い11府省の人事担当者への聞き取りと、職員アンケートを組み合わせている。

最も多い理由は持ち家と金銭的負担

転勤に否定的と答えた5万6701人に理由を複数回答で聞いたところ、「できれば行きたくない」を選んだ人では「転勤に伴う金銭的負担があるため」が49.0%で最も多く、「持家があるため」41.8%、「子育てのため」38.7%が続いた。「絶対に行きたくない」を選んだ人では「持家があるため」が49.4%で最も多く、「転勤に伴う金銭的負担があるため」47.3%、「子育てのため」46.1%の順だった。金銭的負担はどちらでも5割近くに達している。

人事院は報告書で「転勤は職務命令に基づいて行われることからすると、本来、金銭面を中心とした負担を職員に負わせることは適当でない」と明記し、希望の有無にかかわらず金銭的な負担感を軽くすることが欠かせないとした。実際、転勤の負担を軽くするうえで効果があるものとしては「転勤の場所が選べる」63.4%に次いで、「転勤に伴う費用の持ち出しがない」54.3%、「収入が上がる」51.8%が並んだ。

経験者は7割超、3回以上が48.3%

回答者のうち転勤の経験がないのは25.5%で、1回が14.3%、2回が12.0%、3回以上が48.3%だった。転勤は例外ではなく、国家公務員の4人に3人が経験している。

意識は採用区分で大きく分かれた。総合職などでは「ぜひ行きたい」10.2%と「条件が合えば」55.4%を合わせて65.6%が肯定的だったのに対し、一般職(大卒程度)などでは4.2%と40.7%の計44.9%にとどまった。転勤を望む理由は「経験を積めるから」73.7%、「色々なところに住みたいから」60.7%が上位で、条件としては「住んでもよいと考えている地域に赴任できること」65.5%、「転勤先の業務がやりたい業務であること」61.4%が挙がった。

一方、人事院は各府省の聞き取りから、子育てや介護を抱える職員に配慮した結果として転勤者に偏りが生じているとの声があったと記した。そのうえで、配偶者がいて就業している職員でも4割超が転勤に肯定的であることを示し、外形的な属性による思い込みで「家族がいる職員には確認せず、まず独身の職員を候補にする」といった運用が起きていないか点検を促している。国家公務員の採用は、国家公務員総合職の申込1万8281人 専門試験のない「教養区分」が48.8%で半数に迫る 専門試験を課す区分は1万740人から8078人へのように区分ごとの志望動向が分かれており、転勤の説明の仕方が人材確保に直結する。

民間でも転勤がある企業は42.6%

人事院が令和7年9月に公表した令和6年「民間企業の勤務条件制度等調査」によると、転居を伴う転勤がある企業は42.6%だった。規模別では従業員50人以上100人未満が25.8%、100人以上500人未満が46.1%、500人以上では79.2%に上る。大企業ほど転勤が残っている構図は、全国に出先機関を持つ官庁と似ている。

採用時の説明と勤務地の希望聴取へ

人事院が示した方向性は二つに分かれる。一つは職員の意向に配慮した転勤で、採用時に転勤の有無や範囲、時期を、場合によっては不利な情報も含めて具体的に説明することを求めた。採用後も転勤の目的を継続して説明し、部内公募で希望する勤務地へ異動させる、転勤の期間をあらかじめ示す、配偶者が職員である場合は同一か近隣の官署に配置する、といった手立てを挙げている。令和8年度からは一般職試験(大卒程度)の合格者について、初任地の希望を聴き取って各府省に提供する運用を始めた。地域ごとに作る採用候補者名簿の単位の見直しも検討課題とした。

もう一つは負担の軽減で、転勤できない職員の勤務条件を下げるのではなく、転勤する職員に追加の措置を講じる形が適当だとした。国家公務員の人件費は国と地方の公務員人件費、2026年度は29.7兆円 国家公務員は58.7万人で5兆6691億円 行政機関の定員30万8197人は17年ぶりの多さのとおり国だけで5兆6691億円にのぼり、手当の拡充は予算の裏付けを伴う。報告書は転勤そのものがなくなることは考えにくいとしたうえで、慣行として続けるのではなく必要性を検討し直すよう各府省に求めている。